バードの麻雀雑記帳

天鳳(チャオってなければ鳳南に居ます)やその他の麻雀記事を集めた雑記帳です、乾きまくった麻雀砂漠に水を掛けてやりたい…

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
このページのトップへ

ラストスマイル 第7話

横浜で普通電車に乗り換えると、五分ほどで最寄り駅に着いた。

よく「どうしてこの街に住んでいるの?」と聞かれることがある、そう聞かれるのは周りの環境がお世辞ににもいいとは言えないからだ。様々なネオンが輝く風俗店や怪しい店がひしめく街、確かに学生の一人暮らしには向かないだろう。

ならどうしてこの街に住み始めたかというと大学受験に来た時にこの街のホテルに泊まったから、というものでしかない。初めて来た時のこと、予備日が一日あって近所のパチンコ店に行ったら当時の小遣いの十ヶ月分のコインをスロットマシンが瞬く間に吐き出した。それで焼き鳥屋でビールとコップ酒で祝杯をあげたのを覚えている、それで大学に受かったらその時のたまたまでしかない出来事が印象に残っていてこの街に住むことにした、それが真相だ。

あぁ、彼女と最初に飲んだのも焼き鳥屋だったなと思い出す。彼女も同じことを聞くんだろうか?

「いいねいいね、この感じ。なんか猥雑でさ。私、こういう雰囲気好きだな。いかにもアウトローが住む街だよね」

大方予想は出来たがやはり、彼女は今まで出会ったどの女性の感性とも違うらしい。

「ちょっと、オレは別にアウトローを気取ってる訳じゃないから」

慌ててそう言うと

「よくそんなこと言うよね」

と返して笑う。「まいったな」なんて言ったものの確かにオレもこの街の雰囲気は嫌いではない、アウトローかどうかは別にしてもこの街は自分に合っているような気がしていた。

「まだ歩く?ちょっと買い物したいな、お世話になるからお酒でも一本買っていくよ。あっ、これは絶対ね」

「もう着くよ、けど途中にスーパーがあるからそこに行こう。酒かぁ、カンパリって好き?」

「美味しいよね、好きだよ」

「じゃあそれをお願いします」

彼女のことは何も知らない、ただ言い出したらそれを曲げない印象があったので素直に甘えることにした。

スーパーに着く、コンビニ程の広さしかないが値段が安いから週に最低三回は利用している店だ。酒のコーナーに行くと、カンパリの大瓶がいつもの場所に置いてあった。

「この店はいつ来てもカンパリを置いてくれているんだよ」

「えっ、どうして?」

確か―、数ヶ月前の話だったと思う。帰りに寄ったらカンパリが無い、それで店員さんに尋ねたことがある。倉庫辺りにないかなと思っていたら在庫切れとのこと、なら諦めるのだが平身低頭に詫びられた。

それで、次回にこの店に来た時同じ店員さんに「カンパリ入荷しました」と告げられる。それ以来、この店にカンパリが無かったことはない。

こんな話をすると彼女は「いいお店じゃない」と頷いた。

「いや、多分この店では<カンパリ君>とか呼ばれてるんだろうな、それはいいことか分からないよ」

そう言うと彼女が吹き出す、そして「もう、笑わせないでよ!」と肩を叩く。そんなこんながあって、カンパリとちょっとしたつまみを買うと店を後にした。

「ここだよ」

スーパーから歩いて一分のマンションに着く、何の変哲もないワンルーム・マンションだ。

オレの部屋は六階にある、エレベーターに乗った。

「…」

オープンな空間なら軽口も叩ける、だが極端に狭いこんな空間だとなぜか緊張してしまう。これも自分の困ったタチだった。

無言のまま部屋の前に着く、鍵を開け「どうぞ」と彼女を先に入れた。

「お邪魔します」

彼女が中に入っていく、入り口にあるスイッチで電気を付けた。

そういえば―、女性がこの家に来たのは三ヶ月ぶりか。大恋愛(といっても二年程だが)をした大学の同級生が来た時以来だ、実は今日キャンパスで「会いたくないな」と思っていた。

「私と麻雀どっちが大事なの?」なんて聞かれたことがある、それに対して「比べる次元が違うからなぁ、どっちも好きだとしか答えようがない」などとのたまったものだから揉めた。

「嘘でもいいから私ってどうして言ってくれないの?」こんな言葉を残して彼女はオレの前から居なくなった。

結局、どこまでも誠実であろうとした彼女とどこまでも不誠実な自分が分かり合える訳もなかったんだろうな、と今になって思う。

だがこんなことを思う一方、失恋の痛みというのも人並みには感じていたようで、それを忘れるためかとでもいうように麻雀狂いがさらに加速したのだった。

じゃあ―セナはどうだろう?麻雀狂いなオレを嫌うだろうか?いや、むしろ好きになってくれはしないだろうか?何も知らない彼女にそんなことを期待する自分も居た。

「男のコの一人暮らしにしては綺麗な方じゃない?及第点かな」

ほんの数秒の間だった思う、彼女の言葉で回想から現実に引き戻された。

「そう?ほとんど最近居ないからね。あっ適当に座って」

彼女はパソコン机の椅子に腰掛けた。オレは酒と割り物しか入っていないような冷蔵庫から必要なものを取り出し二人分のカンパリ・オレンジを作って彼女に手渡した。

「乾杯」

どちらからともなくそう言ってグラスを重ねる、しばらく取り留めの無い会話をしつつ酒を飲んでいた。

ふと、彼女がパソコンを指差し言う。

「ねぇ、このパソコンってインターネット出来るの?」

「もちろん」

そう答えるといつもの笑みで

「じゃあ麻雀も出来るよね?」

こう言った。

「出来るよ。ちょっと待って」

パソコンの方に行く、そういえば今日はオレのせいで二本しか打てなかったのだった。彼女クラスは二本程度で満足する訳もない。

「最近ネトマで仕掛けの練習してるんだよね、じゃあ麻雀観変わるような愚仕掛けでもご披露するするかぁ」

そう言ってパソコンの電源を入れる、飲みながら打牌の品評会をするのも悪くない。

「じゃあ代わりばんこに打ちますか?」

いつも遊んでいるサイトにログイン。

長い夜は、まだまだ始まったばかりだった。
このページのトップへ

ラストスマイル 第6話

なぜか、彼女の目は少し潤んでいるように見えた。

「知りたいといえばそうかな、何にも知らないからね。ただ…、オレにとって幸せにならないような情報なら知らなくてもいいかな」

オレは、吸い込まれそうになる彼女の双眸を見据えて言った。

自分勝手かもしれないが基本的なパーソナルデータを教えてくれる程度ならいい、だがドロドロしたような過去の恋愛話などをいきなりされたところで自分にとってはマイナスにしかならない。

なら、いっそ何も知らないほうがマシだった。

「そっか、君にとっての幸せってなんなのか分からないけど私の話なんて聞かないほうがいいいもね」

彼女は少しだけ拍子抜けしたように言った。

「でもさ、じゃあ君のことも聞いちゃいけないかな?」

さらにそう聞かれたので

「特に面白い話はないけど知りたければ何でも聞いて」

そう答えた。それからしばらくオレの生い立ちに関する話が続く。自分で話しててもつまらない内容だと思うが彼女はそれなりに楽しんでくれたようだった。

「それにしても、私たちも不思議な関係だよね」

一通り話を聞き終えた彼女がそう言う、「あっ、こういう方向に行ったか」と思った。

オレはこういった類の話が苦手だった、「付き合ってください」だとか「あなたは僕の恋人です」だとかの言葉には何ら実体が無いと考えていた。空しいだけの言葉なら何も言わないほうがいい、当時はそう思っていた。

実体などなくていい、ただその言葉を言うだけでも違うのだということを何年か後に知ることになる、が、当時の自分はどこまでも意固地になっていた。

少し顔でもしかめていたろうか、場を取り繕うように彼女が「あっ、そんな深い意味じゃないから」とフォローしてくれた。

「あー、うん。麻雀はリャンシャンテンが一番面白いけど恋はイーシャンテンが一番面白いかな、なんてね」

聞かれてもいない言葉で隙間を埋めようとする、だがこの行為自体が空虚でしかない。

「もう―、こういう系の話はやめよっか?」

「そだね」

話すのをやめると店内のBGMがこんなに大きかったのかと気付く、二人の間には何とも言えない白けた空気が流れていた。

その後、仕事が一段落したさっきのバーテンがフレアを見せてくれた。新技というのはかなり派手で、視覚にかなり訴えてくるものだった。が、彼女もそうだったろうがオレも楽しんで見ることは出来なかった。

結局―、長くなるかと思われた会はハッピー・アワーの終わる頃には終了した。

駅までは数分の距離だ、このまま終わりかと思うと淋しいのだがさっきの白けた空気はまだ引きずったままだった。

「あのさ、今から君の家に行ってもいいかな?」

沈黙を破ったのは彼女の言葉だった、思わず聞き間違ったかと思うがそうではない。

「あっ、あぁもちろん。何も無い部屋だけどいいかな?」

「いいよ」

思いがけない展開になる、正直これっきりになってしまうような予感すらしていたからだ。

「じゃあ京急なんでこっちだよ、三十分くらいかな」

先程までの空気感はなんだったのかというほど自然に二人でホームへ、駅は帰宅ラッシュの乗客でごった返していた。

「混んでいるからあんまり話したり出来ないかもね」

そう予想していたのだが乗ってみると案の定乗車率は余裕の百パーセント越えでバラバラになって立っていた。

ふと、一人になって思う。

神秘のベールに包まれた美女のその奥を覗いてみたいという思いはある、だがそうするには自分は麻雀同様に臆病に過ぎるようだ。だが、これではなんにも話は先に進まない。

「自分のスタンスくらいははっきりさせないといけないよな」

そう一人ごちてみる、家に着くまでにはそうしたいもの。

しかしもうあまり時間もなくって―、気持ちばかりがこの時焦り続けていた。
このページのトップへ

ラストスマイル 第5話

「ちょっといい?」

麻雀に集中していたオレの肩が叩かれる、ママだった。入り口の方を顎でしゃくる、どうやらこっちに来いということらしい。

雀荘の扉を出るとママが渋い顔をして立っていた。

「あのコって?」

唐突な質問に戸惑う、それに―、何て答えていいのかも分からなかった。

「あぁ、最近仲良くさせて貰っているんですよ。」

無難な返事をする。

「何してるコなの?」

「いや、知りません」

「知らないの?じゃあなんで一緒に来たの?」

「一緒に麻雀しようって話になってじゃあいつも来ているここに来ようかと、それで来てみたんです」

「アンタたち付き合っている訳?そもそもなんで知り合ったの?」

「付き合ってるというか…、池袋でたまたま同卓してその後たまたま一緒に飲みに行って、そのまま一緒に泊まったんですよね」

矢継ぎ早に質問をされて面食らいながらも正直に答える、答える内にそういえば彼女のことを何も知らないんだなと思う。

ママはウンザリしたような顔をしている。

「アンタねぇ、あのコだけはやめときなさい。あのコはなんであんなに麻雀が達者なの?相当やっているわよ、麻雀に狂った女のコになんてロクなのがいないんだから」

断言するように言う。麻雀人口の比率で男が圧倒的に多いから女性が目立つだけだろうと思う、こんなゲームで身を持ち崩すのは男の方がよっぽど多いだろうと思ったが黙っておいた。

「いい?あなたは前途ある身なんだから変なコに引っかかっちゃダメなんだからね」

諭すように言う、ママやマスターはよくこんなことを言ってくれるのだが自分ではどうしてもそうは思えなかった。人生という一番大きなゲームの中のかなり重要な場面で、こんなゲームに狂っている奴に前途なんかある訳がないだろうと思う。

ただ、子どもの居ないマスター夫妻が息子のように可愛がってくれているのも知っている。その感情を察すると余計な心配を掛けるのも本意ではなかった。

「これからいろいろなこと知って行きたいなぁと思っているんですよ、ぶっちゃけどんどん彼女のことを好きになっているんです」

オレの言葉にまたママは眉をしかめる。

「いい?今日はもう帰りなさい。悪いけどあのコと来たってうちでは打たせられないから」

宣言するように言うと、もう話は終わりだと言わんばかりにママは店に戻って行く。理不尽なものを感じないでもなかったがオレも続いて店に入った。

「すいません、これでオレら帰るんでラス半にしてください」

戻るなりそうマスターに言う、皆「えっ?」という顔をする。

「どうしたの?まだ二本目だよ?」

彼女が聞いてくる。

「いいからさ、これで帰ろうぜ」

少し語気を強めてそう言うと彼女は小さな声で「分かった」と言った。こんなやり取りがあったからだろうか、さっきまで笑いに包まれていた卓はすっかり静かになってしまった。

そして―、彼女はラスを引いて黙って席を立った。

店を出て「ゴメンね」と彼女に言う、彼女は急なラス半の理由を聞こうとはしなかった。

「ちょっと飲むには早いな、五時からなら安いとこ知っているんだけど。今日は急に麻雀終わりにしちゃって申し訳ないから奢るよ、さっきのラス分くらいは飲んでいいよ」

気まずい空気をかき消すようにそう言うと彼女は少し微笑む。

「じゃあ五時まではいいんだよね、そういえばさ、君の大学ってここから近い?」

あまり気を悪くはしてないようで一安心した。

「行けなくはないよ」

質問の意図がいまいち分からない

「今から行ってみようよ、私すごい行ってみたいんだ」

気まずさなど最初から無かったように笑顔で言う

「いいけど、特に何も無いよ」

「いいの、行こう」

手を引かれて大学に向かうことになった、徒歩で二十分くらいの距離を歩く。麻雀の話はしたくなかったから違う話でお茶を濁していた。

大学に着く、キャンパス内には多くの学生が居る。時計を見るとちょうど休み時間だった。彼女を見ると珍しげに辺りに視線を走らせている、オレは―、いつも通り特に何も感じなかった。

大学生って普段どうやって過ごしているのだろう?入るまではみんなテニスでもやってるのかと思ってた、けど実際はそんなこともないらしい。一つだけ思うのはオレとは違う時間が流れているんだろうなということ、「どちらが幸福なんだろう?」通り過ぎる同級生たちを見つめながらそんなことを考えていた。

「キャンパスに来たの久々だな、私の大学とは違うね」

一通り眺め終わった彼女が言う

「あぁ大学生だったの?」

先程も言われたことだがやはり彼女のことは何も知らない。

「去年まではね、中退。○○女に行ってたよ」

国立の女子大の名前を言われた、オレの大学なんかよりよっぽど上等なところだった。

「後学のためにどうして辞めたのか聞いていいかな?もしや麻雀が原因だったりして?」

冗談めかして聞く

「残念ながら麻雀じゃないんだなぁ、私さ、女の子と居るの嫌いなんだよね。なんでも一緒にしなきゃ落ち着けない人ってのが実に多いんだ。そういうのに出来るだけ関わらないようにしてたんだけどクラスとかあって中々難しくてさ、だから面倒になって辞めちゃった」

あっけらんかんとした顔で言う、あまりにさっぱりし過ぎていて思わず笑ってしまった。

「なんか君らしいね、よし、そろそろいい時間だからもう飲みに行こう」

「奢ってくれるんだよね?」

「言ってしまったものはしょうがない、ただし七時までね。」

「何それ?まぁいいや」

大学を出て品川駅まで歩いて戻る、プリンスホテルに併設している行き着けのアメリカン・バーへ行った。

「いらっしゃ…、あぁいつもどうも。カウンターですか?」

顔なじみのバーテンに聞かれた

「うん、二人」

席に案内される、まだ時間が早いこともありカウンターは空いていた。

「カウンターなんだね?」

席に着くと彼女が聞いてくる

「うん、実は七時までがハッピー・アワーでドリンクが安いんだ」

「なるほどね」

納得したようだった。

「いらっしゃいませ、今日は違う女性と一緒なんですね」

別の顔見知りのバーテンがニヤニヤしながらそう言っておしぼりを出してきた。

「あのねぇ、おしゃべりなバーテンが居たら即刻死刑に出来るって法律がもうすぐ施行されるって知らないの?君なんかすぐ終わりだよね」

歳が近いというのといつもオレが一人で来るからよく話すようになった、しかしだからといって余計なことをしゃべられてもかなわない。

「へぇ、そうなんですか。でも一緒に来る女のコも居ないような人よりよっぽどマシだと思いますよ」

彼女が言う、本心かどうかは分からなかったが早速気まずくなりそうだったから救われたような気になった。

「いいから生のパイント二つ持ってきてよ、あっ、それとあとでフレア見せてあげて」

「かしこまりました、新技があるのでご期待ください」

そう言ってようやく彼は居なくなった。

「何?フレアって?」

彼女が聞いてくる

「バーテンが瓶をクルクル回したりするの知らない?彼のトークはイケてないけどフレアは上手でさ、世界大会に出るのが夢なんだって」

「あっ、あれ?生で見るの初めてだな、楽しみ」

笑いながらそう言った。一人で飲んでいる時によく見せてくれる、素人目に見ても彼の技がすごいことは分かった。新技を成功させたりするとドリンクを出したり、最近ではフレアを見るのもここに来る楽しみになっていた。

「お待たせしました」

ビールが運ばれてきて乾杯、いつものことだが炭酸が食道を焼くような感覚が心地いい。

「さっき雀荘でさ、奥さんに何か言われたの?」

まだビールに口を付けたばかりのタイミングで唐突に聞かれた

「あっ、うん…。君のことをなぜか聞かれてさ、何も知らないって言ったら呆れてたよ」

卓に集中しているかと思ったら気付いていたらしい、何て返したらいいか咄嗟には考えることも出来ずありのままを答えていた。

「そうだったんだ」

そう言って彼女がこちらを向くのが横目で分かった、オレもそちらを見ると彼女の大きな目と視線がぶつかる。

「ねぇ、もっと私のこと知りたい?」


「えっ?」

またなんて答えていいか分からないようなことを聞かれる、今日はそんな質問をよく受ける日らしい。オレは―どうしたいんだろう?

返事に詰まる。だがこの時一つだけ確信していたのは―

七時で帰るという選択肢だけはなさそうだなってことだった。
このページのトップへ

ラストスマイル 第4話

くだらないだけのメールをようやく送る、「本当にあのメールでよかったんだろうか?」とも思いつつベッドに座ってウィスキーを飲んでいた。

家に居てもすることがない、最近はシャワーと寝るためだけに帰ってくる部屋と化していた。手持ち無沙汰を誤魔化すようにギターを手に取る、だが、昔あれだけ好きだった時間が今はどうもハマれない。

トゥルルルトゥルルル~♪

メール着信音が鳴る、競馬好きな友達に貰ったものだ。馬券売り場で支払いが可能になった時に流れる音源らしい。

画面を開くと期待通り、セナからだった。

<件名:お疲れ様>

<本文:初めてくれるメールが何切る?って珍しいね、私は親じゃなくてもドラ切るかな?ただ、赤が一つも無いのに運の細さを感じます。>

こんな内容だった、思わずニヤッとする。すぐに返信を打った。

<件名:実戦譜の結果>

<本文:オレもドラを切ったんだけどその後ドラを二枚河に並べました、そのうちリーチを受けてベタオリ。。あれだけ美人だと思っていた手牌はグチャグチャに、やはりオレにはあの手は高嶺の花に過ぎたようです。>

返信を打ちしばらくするとまたメールが来る、しばらくやり取りが続く。久々に手に取ったギターはいつの間にか部屋の隅にほっぽられてしまっていた…。

数日後―、また一緒に麻雀を打つことになった。オレが横浜で彼女が埼玉だから間を取って大学のある品川で待ち合わせた、JRの改札で落ち合う。

「久しぶり、って程でもないか。品川に雀荘なんてあるんだね」

「うん、最近ホントにそこにばっかり。品川までは来るのに大学は行けないんだよなぁ。とりあえず行ってみよう、こっちだよ」

嬉しいと思ってるのを悟られたら恥ずかしい、それをかき消すように歩きながら事務的にルールを説明する、どこにでもあるピンの1-3で珍しいことなど何も無いが話しているうちに店に着いた。

ドアを開ける。

「こんにちは、今日は二人なんですけど」

「おぉ…、今オーラスだから一人はすぐ入れるよ」

マスターが首だけこっちを見て驚いたように言う。確かに一人でしか来たことがなかった、しかも女性連れなのだから驚かれても無理はない。

「どうする?オレから行こうか?」

彼女はチラッと卓の方を見て言う

「せっかくだから私から行こうかな、いい?」

「もちろん」

順番は決まったのでドリンクを飲みながらマスターの麻雀を眺める。マスターは二着目で下の親に丁寧に牌を絞っている、それを見て「らしいなぁ」と思う。勝ちすぎず、負けすぎず、マスターの打ち筋はメンバー麻雀のお手本のようだった。

「ラストでーす、どっちから行くの?」

二着を守りきったマスターに聞かれる

「彼女から行きます、ルールはもう説明してあるんで大丈夫です」

そうオレが言うとマスターは黙って頷いた。

「よろしくお願いします」

彼女が卓に着く、オレはバックから文庫本を取り出し彼女の後ろに座った。そういえば彼女の麻雀を見せてもらうのは初めてだった。

対局が始まる、メンバーはスーツ姿の三十代くらいのサラリーマンと五十代、六十代と思しきオジサン。オレも何度も打ったことがある面子だがそんな大やけどはしなさそうなメンバーだ。

初めて見た彼女の麻雀は―、「豪胆かつ繊細」の一言に尽きた。少しでも出遅れを感じたり手が入っていない時には場況にずっと対応する、そうかと思えば親番に自信があると見るやカンチャンを即リーしてきっちり引きあがっていた。

「上手い、いや、強いな」素直にそう思う。ただ、その打ち筋は鉄火場の雰囲気を感じる。彼女の麻雀は間違いなく博打打ちのそれだった。

一回戦目は奮戦したものの彼女は二着、対面のオジサンがエグく裏ドラを乗せてトップを取った。チップの多寡が勝敗を決めるのがこのルール、だが競技麻雀なら彼女がトップだったろうなと思う。

チラッと横顔を見やると特に何も気にしてる様子はない、やはり相当色んな場面で打ち慣れているようだ。

「ところでよぉ、兄ちゃんたちはどこまで進んでんだ?リャンシャンテンか?イーシャンテンか?ん?」

トップを取ってすっかり相好を崩した対面のオジサンがニヤニヤしながら聞いてくる、「また始まったよ」と思う。

普段はちょっとでもツカないとチッチッなんて舌打ちばっかりするし牌の扱いも雑になる、だがちょっとでもノッてくるとベラベラと喋り出す。しかも話の内容が金と女の二択しかない、オレはほとほと閉口していた。が、この人には元々品性がフォーマットされてないんだと思うと全く気にならなくなった。

オレだけだったらいい、だが今日はセナも居る。おかしな質問をされてオレはただただ苦笑するしかなかったんだが彼女はサラッと言った。

「あぁ、テンパイまでは早かったですよ。ねっ?」

こっちを見ながら微笑みを寄越す、彼女の言葉に些か驚きつつ「あぁ、うん」と返し質問の主を見るとキョトンとした顔をしてる。なるほど、どうやら役者が違うらしい。

「あっ、あぁ。そうなのか。じゃあ君らはチートイツみたいなもんだな、うん」

タジタジだったオジサンが苦し紛れにそんなことを言う

「それってあんまり巧くないですよね?」

オレがそう言うと卓が笑いに包まれる。

やっぱりホーム店であるここに連れてきてよかった、と思う。そして―ますます彼女に堕ちてゆく。

だが、店内に一人だけ笑ってない人が居た。その人は音もなくオレに近寄って来た…。
このページのトップへ

ラストスマイル 第3話

ピピピピピピ…

無機質な携帯のアラームで目覚める、今度は寝過ぎたのか今日も頭が痛い。

時計を見るとそろそろ昼という時間、「あぁまた語学の授業に行けなかったな」と思い出す。だがまだ欠席は二度目だ、三回まで休んでいいというならギリギリまで休まない手はない。それに、そもそも授業に行ける時間にアラームをセットしていないのだから最初から行く気がないんだろう。

午後からの少しだけ興味のある講義でも聴きに行くかと思う、準備をして家を出た。

電車での道すがら手帳を取り出す、麻雀の収支と簡単な感想を書いているものだ。おとといからか、<池袋、+一万、セナと打つ>。

ふと、自分の書いた文字に引き込まれる。

<セナ>

おとといたまたま同卓した女のコ、一つ年上らしい。誘われてそのまま飲みに行ってなぜか寝てしまったのだった。

それで昨日も一緒に麻雀打ちに行ってゲーム代負けしてきた、平均着順は彼女の方が上だ。その後また韓国料理屋で飲んでマッコリのカメを五個くらい空けて終電で帰ってきた。

あれは現実の話なんだろうか?そんなことを思う。だがポケットから携帯を取り出し電話帳を見ると彼女の名前は確かにあった。「何か気の利いたメールでも送ろうか?」こんなことを思うものの、なんて送っていいか分からない。

いろいろ思案していると品川に着いてしまう、電車から降りるとさっきまでの自分がなんだかとてもバカらしくなってしまい大学とは逆の出口から出た。

オフィス街のあるこちら側に何か特別なものがある訳ではない、自然と足を向けたのはまた雀荘である。本当に自分でも愚かだと思う、だが学校や見えない将来、おととい会ったばかりの彼女のことで悩んでいるくらいなら牌を握っているほうが気は楽だった。

結局―、この日も自分にそんな言い訳をして雀荘の扉を開けた。

「おぉ…いらっしゃい」

マスターが迎えてくれる、この店は五十代の夫婦がやっている店だ。子どもが居ないらしく普通の雀荘ではありえないほどオレはよくしてもらっていた。

初めて来た時だったろうか、マスターに聞かれたことがある。

「学生?うちは学生あんまり来ないんだけどどうして入ってみようと思ったの?」

こんな質問をされた。

「えっ?麻雀って看板が出てたからですけど…」

思ったままを答えると

「ハッハッハ!そこに麻雀という看板があったからか、うん、こりゃいい。傑作だ」

そこまで面白いとも思えなかったがこんなやり取りで気に入られたらしかった。

マスターとはこんな話をしたが<ママ>には最初からよくして貰っていた、当時はいつも青っちょろい顔をして打っていた。心配したママが手製の料理をサービスで振舞ってくれたことがある、それを「美味い美味い」と綺麗に平らげてから気に掛けてくれるようになった。

とにかくこの雀荘、今まで通ったどこの店とも異質だったのである。ご飯はいつもタダだし帰りには「アンタは外食ばっかりだから」と保冷剤で包んだタッパに豪華なおかずを入れて持たせてくれたりもした。この夫婦に招待されて品川プリンスで食事をしたこともある、本当にいつも気に掛けてくれた。

さらには負けて帰る時に階段までママが送ってくれて、エプロンから一万円を寄越したこともある。だが、さすがにこれは断った。

仕舞いには翌年から授業時間限定で出入り禁止にされた、雀荘を出禁になったのは後にも先にも初めてのことだ。

当時はこれ以上はないというくらい麻雀に狂っていた、だからだろう、田舎から出てきて<東京の両親>のような人を見つけることが出来たのが雀荘というのはある意味必然なのかもしれなかった。

「もうすぐ入れるからちょっと座ってて」

マスターに声を掛けられる。オレが入ることになるのは地元の自営業のオジサンと近くの大企業のサラリーマン、この店のメイン客層の卓。

五分ほど待って卓へ、だがどうにもこうにもチグハグな感じだった。縦のキャッチも横のキャッチも上手くいかない、こんな状態で点棒が入ってくるほど甘いゲームでもない。

何回か連続で逆連帯を繰り返す、「ハァ」と自然とため息が漏れる。

「ちょっと、ため息ばっかりついてどうかしたの?」

ママに聞かれる

「あれ、ため息そんなついてました?いや、何でもないッスよ」

空元気でそう答えた。

「若い男がこんな悩むって言ったら…、オナゴのことだろ?」

テンパイ気配を察知したり他人の気分を害することに関してまったく鈍感な対面のオジサンが口を開く、こんな時だけはやたら鋭い。

「あら、そうなの?若いっていいわねぇ」

ママが笑う。

「ホントにそんなんじゃないですってば、けどどうにも元気が出ないのでこれでラス半にします」

そう告げて麻雀に集中しようとする、だが最後まで入り込むことは出来なかった。この日は―、結構負けてしまった。

「隠し事しちゃダメよ、何でも言っていいんだからね」

帰り際ママにこんなことを言われる、ホントにどうしたんだろうか?

「明日には治りますよ、じゃあまた」

店を出て帰りの電車へ乗る、もう帰りたかった。すっかり暗くなった景色を車窓から眺める。

実は―分かっていた。卓についていた時から彼女の、セナのことばかり考えていた。

この気持ちは何なんだろうか?自分でもよく分からないのだが意識はどうしても勝手にそちらを向く。

自分に言い訳を繰り返しているが、自分に嘘はつけない。彼女にコンタクトを取ることにした。

携帯を取り出す、が、何て書けばいいかさっぱり浮かんでこない。

結局、家に着いてもまだ悩んだ末にこんなメールを送った。

<件名:今日の実戦譜より>

<本文:親の8巡目 33557(34567)五六七 ツモ4 ドラは7です、何を切りますか?>

さんざ悩んだ挙句のメールが<何切る問題>、勇気を出してメールを作ったものの、こんなものでどうしたいのかは―

この時自分でもよく分かっていなかった。
このページのトップへ

FC2Ad

プロフィール

バード(メン)

Author:バード(メン)
訪問ありがとうございます、天鳳やその他麻雀関連のブログです。天鳳で起こった出来事や麻雀を軸とした物語を実話だったり想像で書いています。天鳳ID:焦燥のバラッド(八段、鳳南民)

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (0)
自己紹介 (1)
読み物 (61)
初フリー~列伝 (4)
天鳳系 (24)
麻雀恋愛小説ラストスマイル (12)
ある日の天鳳 (5)
バードのフリー入門 (4)
嬢との麻雀 (4)
大阪編 (7)
<番外編> 競馬場に咲いた花 (3)

天気予報


-天気予報コム- -FC2-

飛来してくれた方

ツイッター

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。